ショコラ~愛することが出来ない女~


視界に、驚いたような傷ついたような表情の隆二くん。

その顔に、安心してしまう自分は最低だ。


「……誰と?」

「会社の、……後輩。
今年の頭から付き合ってるの。プロポーズ、……されたから」

「本気?」

「本気よ。いつまでも一人は寂しいもの」


隆二くんはうつむいて、固くこぶしを握る。


「……そうか」

「うん。そうよ」


だからもう、会いには来ないと思う。

続けた言葉は、どちらかといえば自分自身に向けてだ。


「いい人?」

「うん。若いんだけどね。
案外行動力もあって、まあ、そうね。……うん。いい人よ」

「康子さんが選ぶんだもんな。悪い男な訳ないか」


頭をかきながら隆二くんはそういって、カウンターに手を突いた。


「康子さん、俺さ。やっと、借金返せたんだ」

「なに? お店の?」

「ああ。ようやく、俺の店だって本当に言えるようになったんだ」

「そう。……おめでとう」


この店が離婚のきっかけだった。
私にとっては苦い思い出の店。
でも隆二くんにとってはかけがえのない宝物。
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