ショコラ~愛することが出来ない女~
ぐつぐつ煮え立った鍋を詩子が覗き込む。
「おいしそうだね。母さん良く来るの?」
「そうね。最近こういうとこのほうが多いわ」
「あーだから、肌つやつやしてんの? 前より若返った気がする」
「それは多分若いエキスもらってるからよー」
「へー」
カマかけてみたんだけど、詩子はさらりと流す。
分かってない?
これは直球で行かないと駄目かしら。
なんて思っているうちに詩子の顔色が変わってくる。
「って、か、母さん?」
「私ね、再婚しようと思ってるのよ」
「ぶっ」
詩子の口から白菜が飛び出す。
あら、いい反応。
これくらいリアクションあると面白いわ。
「相手は会社の後輩、32歳」
「えー!!」
目を白黒させて、手をこぶしにして胸元まで上げた。
興奮してるのも面白い。
やがてその手を振りながら根掘り葉掘り聞き出し始めた。
私はそれに当たり障りのない程度に答えていく。
隆二くんに話すときもこれくらいの余裕が欲しかったな、なんて苦笑してしまう。