ショコラ~愛することが出来ない女~
私には出来なかったことを、この子はやっている。
愛することが出来るから。
自分勝手な恋じゃなくて、人を愛して共に生きることが出来るから。
そんな風に育てたのは、隆二くんだ。
私には出来ない。
だって、私自身が分からないんだもの。
どうすれば人を愛せるかなんて。
「……そうね。『ショコラ』は隆二くん一人で作り上げたものじゃないわね。
それは気付かなかった」
イヤだ、泣きそう。情けなさ過ぎる。
私が『ショコラ』には入れないのは、私が本当の愛情を知らないからだ。
「……私はもう、そこには入れないわね」
弱音がこぼれ出す。
詩子は、焦ったように身を乗り出した。
「母さんがその気になればいつだって入れるよ」
希望に満ちたそのまなざしがまぶしい。
もう無理だ。
私はそんな風にキラキラしたものはもう持ってない。
年を経ていくうちに無くしたものはたくさんある。
ありのままを受け入れる柔軟さも、その一つ。
今の複雑な気持ちを、どうしても処理できない。