ショコラ~愛することが出来ない女~
甘い匂いと共に頭に蘇ってくるのはいつだって、甘いものを作りながら厳しい目でそれを見つめる人。
「……」
丁度、次に停まる駅から数分歩いたところにあの店がある。
キキィっと電車が鈍い音を立てて停まる。
アナウンスとともに開く扉に、誘われるようにひょっこり降りて、フラフラと歩く。
今更何をする気なんだろう私は。
そう思うけど、時折り無性に食べたくなる。
彼の作るケーキ。
彼から香る匂い。
辿りついた喫茶店『ショコラ』の扉には、もうクローズの札が立てられている。
けれども、窓からは灯りが漏れていて、私を誘っているかのよう。