ショコラ~愛することが出来ない女~
14 本音を出せば
奥さんの顔までは遠くて見えない。
だけど、立ち止まったことで彼女も私たちに気づいたらしい。
三階の部屋の扉の前から階段に向かって走り出した。
けれど足取りがおぼつかない。
まっすぐではなくふらふらと壁と柵とに交互にぶつかっている。
「庄司くん、何か変じゃない?」
「まさか、……酔ってるのか?」
思わず青ざめる。早く行ってあげて、と彼の腕を叩いた。
「亜衣っ、動くなっ」
お腹の底から出たみたいな大きな声。
だけど奥さんは立ち止まることもなく、階段へと向かって駆け下り始めた。
「駄目、危ないっ」
私が叫んだのは、彼女がよろめいたのと同時だ。
駆け出しても間に合うはずがなかった。
足を踏み外した彼女は、そのまま一気に滑り落ち2階の踊り場へと倒れこんだ。
庄司くんが駆け出し、私が後を追う。
だけど私はパンプスなので、彼との間にかなりの距離が開いた。