ショコラ~愛することが出来ない女~

庄司くんは一気に2階まで階段を上がり、奥さんの意識を確認した。


「ごめん康子さん。救急車呼んで」

「わ、分かった」


電話をかけ、住所を伝えながら彼女の傍に寄る。

頭から出血しているが、意識はおぼろげながらあるようだ。ただ、全身からお酒の匂いが漂っている。こんな風になるには、一体どれだけのお酒を飲めばいいのだろう。

きちんとしていれば可愛い感じのタイプなのだろうけど、必死に彼を見つめる血走った瞳と乱れた髪が凄みを増させて、怖いくらいに感じる。


彼女はお酒臭い息と共に言葉を吐き出す。


「……返して」


瞳からは涙が一筋伝っていく。


「亜衣。大丈夫か?」

「返して、舞を」

「舞のことより今は自分だろ? 何でこんなに酒飲んだりしたんだ」

「それは、あなたが……」


彼女はそこで言葉を切ると、視線を私の方に向けた。
充血していて潤んでいる瞳に見つめられて、たじろいでしまう。

酔っているだけじゃないだろう。おそらくは泣いていたんだ。

 
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