ショコラ~愛することが出来ない女~
「……せめて、舞を返してよ」
吐き出された言葉に、私の方が目をそらした。
先ほど途切れた言葉の続きが聞こえてきそう。
きっと彼女はこう続けたかったんだ。
【あなたが、いなくなったからよ】
それは依存だろうか。
そこまでの依存は執着からなのか愛情からなのか。
多分両方だろうと思う。
やがて、救急車がサイレンを鳴らしながら到着する。
私は階段を下りて彼らを誘導した。
「ごめん、康子さん。俺病院までついていくから」
「うん。気をつけて」
「康子さんこそ。タクシーで帰りなよ。お金ある?」
「あるわ。大丈夫」
タンカに載せられて運ばれていく彼女に彼はついていく。
遠ざかる救急車の音を聞きながら、私はとぼとぼと歩き出した。