ショコラ~愛することが出来ない女~
なんとか5分で体裁を整えた。
最後に口紅をひいて終わり。
先日買ったばかりのコーラルピンクの口紅だ。
同時に玄関ベルが鳴り響いたので、息を整えてから彼を招き入れる。
「どうぞ」
「入ってもいいんだ?」
「いいわよ。何? 今更」
「もう結婚するからダメって言われるのかと思った」
隆二くんから買い物袋を受け取り、それには返事をしないでリビングに向かう。
心臓がドキドキする。
そういえば彼は私が庄司くんと別れたことは知らないのよね。
「ところで、突然どうしたの? 詩子に何かあった?」
詩子以外に、彼がうちに来る理由が思い当たらない。
「ああ、あった。もう大変だ。俺には手に負えない」
「え? 何があったのよ」
予想外に深刻な顔をされたので、コンビニ袋を放り投げて彼の顔を覗き込む。
こんなに間近で見るのは久しぶり。
そういえば目がちょっと潤んでるわ。本当に何かあったのかしら。
「詩子が、駄々をこねだしたんだ」
「はぁ?」
駄々ってなによ。
そんな子供みたいな真似、詩子がするはずないじゃない。