ショコラ~愛することが出来ない女~


「康子さんに、自分の母親のままでいて欲しいって。一緒に住みたいって」

「詩子が?」


そんなこと、言う訳がないわ。
言ったんだとしたら何か目的があるのよ。


「そんな風に背中押されて、俺はようやくここまでこれた」


思考を遮るように彼の言葉が降りてくる。
いつもケーキに向けられる真剣な眼差しは私を捉えて離さない。

どうして今でもこんなに胸が軋むんだろう。
私はずっとこの視線に弱い。彼の愛情や繊細さが視線によって絡みついてくるみたい。


「隆二くん」

「結婚しないでほしい」

「……っ」


思わずつばを飲み込んだ。
その眼差しに溶かされてしまいそう。
あんなに人を傷つけて尚、私は彼の言葉にこんなに反応するのか。


「結婚はしないわ。私結婚は向いてないみたい。いろいろあって、……ダメになったのよ」

「え?」


今度は素っ頓狂な声をだす。
まあそうだろうな。詩子に会わせたのがお盆の頃。たった半月で破談になってるだなんて、誰も思わないだろう。

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