ショコラ~愛することが出来ない女~


「……分かったよ」


ため息とともに落とされる一言。
決別されるのかと思うと泣けてきそうになる。

そこからしばらくの沈黙が重たくて、体全身が沈んでいくよう。

「……クリスマス」

「え?」

時期はずれの単語に、思わず顔をあげる。
隆二くんは怒っているでも笑っているでもない、どちらかと言えば無表情に近い顔つきで、私をじっと見ている。


「『ショコラ』にケーキを食べに来て欲しい。クリスマスイブに。出来れば閉店後がいい」

「ちょ、……いきなり何? 今8月よ? なんでクリスマスの話」

「その時にもう一度今日のプロポーズの返事を聞かせて欲しい」

「……」


嫌われたわけではないらしい。
そのことに、ひとまずホッとする。

だけど、彼の本心は全く見えない。
どうしてクリスマス?
どうしてケーキ?


「約束してよ、康子さん」


隆二くんの長い指が、私の指を拾い上げる。

スイーツを繊細に飾り付ける節ばった指。
その指の動きを見ているのが大好きで、自分のほうを向けさせたくて仕方なかった。
彼に触れられる瞬間、私はいつだって極上の気分になったっけ。
今も、触れているのは指先だけなのに、そこから体中が疼いてくる。

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