ショコラ~愛することが出来ない女~


 暗くなってから会社を出る。

今日は何を食べようか。一人だと作る気も起きない。
とは言え、そろそろ脂っこい料理も飽きては来ているのだけど。


「……あの」


暗闇から声をかけられ、飛び跳ねるほどびっくりした。


「桂木、康子さんですよね」


私の名前を呼ぶ声とともに姿を表したのは、小柄で清潔感のある服装をした女性だった。
顔をまじまじと見ると、見覚えがある。


「……亜衣、さん?」

「はい。山根 亜衣と言います庄司の……前妻です」


小さく頭を下げた彼女は、緊張しているのか指先をこすりあわせていた。
だけど、以前見た姿からみたら随分落ち着いている。
アルコールが入っていないだけでこんなに違うものだろうか。


「こんばんは。あの、……私に御用?」

「はい。あの。少しお話出来ますか?」

彼女が顔を上げたことで目が合う。

今更何の話をするっていうの?
もう別れて2ヶ月ほど経つ。
苦情を言われる筋合いもないと思うのだけど。


「いいわ。何処かに入りましょうか。近くの喫茶店とかでいいかしら」

「あ、はい」

「じゃあ、そこのビルの2階にコーヒーの美味しい店があるから、そこにしましょう?」


会いに来たのは彼女の方なのに、場をしきってしまうのは私。
性格の問題なんだろうか。

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