ショコラ~愛することが出来ない女~
そして、隆二くんとの約束の日がやってきた。
メイクも服もバッチリ整えて、私は駅から『ショコラ』までの道のりを歩いている。
あなたは私に何を見せるつもりなの?
私はあなたに何を見せれるの?
「……雪だ」
チラホラと、暗い夜空から舞い落ちる白い粒たち。
それはとても綺麗で、無垢に見えて。
「……いいなぁ」
綺麗な頃に戻りたい。
ただ純粋に好きなだけで彼を追いかけてた頃に戻りたい。
あの頃は勢いがあった。
何もかもにがむしゃらに向かって、それで得たものに酔いしれて。
まあそこで溺れすぎてできちゃった婚になった訳だけど。
それでも今よりずっと幸せだった。
好きなのに屈折して一緒に居られないなんて、どう考えたって救いがない。
やがて、『ショコラ』が見えてくる。
改装中なのか、お店の右手側には工事用ネットがかけられている。
でも、入口付近は綺麗なままで、店内の明かりは落ちているけれど、カウンター周りだけダウンライトが付いている。
扉には『close』の看板。だけど鍵はかかっていなかった。