ショコラ~愛することが出来ない女~

ゆっくり扉を開けると、ギィと軋んだ音がする。


「いらっしゃい」


低い声が私を迎える。

茶色のエプロンをつけた隆二くんは、私を見るなりコーヒー豆を取り出した。
促されてカウンターに座ると、まずはコーヒーが出てくる。
私が言う前に、砂糖は入れられている。

甘い、切なくなるほど甘いコーヒー。


「なんで今日だったの?」

「クリスマスだから」

「ここまで待たせる必要あったの?」

「あったよ。クリスマスケーキは、5年前から特別なんだ。……ちょっと待ってて」


そう言って、隆二くんは厨房の方へ行ってしまう。

5年前ってなにかあったかしら。
もう別れてるころだからわからない。

ああ、そういえば最初にヨリを戻したのが5年前だったかな。


「お待たせ」


コーヒーを半分ほど飲んだ所で、隆二くんがお盆を持ってやってくる。

そこには、5種類のケーキがあった。
柊の葉が載せられてたり、雪を模したような粉砂糖が書けられていたりと、どれもクリスマスを彷彿とさせるものだ。


「……5個も食べれないわ」

「この中から1つだけでいいよ」


隆二くんは、一皿ずつゆっくりとカウンターに並べていく。

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