ショコラ~愛することが出来ない女~


「あの年から、クリスマス時期に特別なケーキを出そうと思い立ったんだ。
覚えてる? 君は俺のプロポーズに返事をくれなかっただろう?
仕切り直しには、クリスマスがいいと思ってた。ケーキは俺にとって人生のほぼ全てといえる。その時できる精一杯の力で作ったものを康子さんに食べさせて、もう一度プロポーズしようと思ってた」

「そうなの?」

「ああ、だからあの年はショックだった。クリスマスを迎える前にダメになったから。
それですごい考えたよ。康子さんは何が不満なのか。どうしてうまくいかないのか」


あなたがケーキに夢中になったから、私はあなたの前から逃げ出したのに。
こういうのすれ違いっていうのかしら。


「その年、俺は答えを見つけられなかった。クリスマスケーキだけは、なんとか作ったけどね。さすがに、これまで作れなかったら自分を軽蔑しそうだったし」

「……そう」


なんてコメントしていいか分からず、目を伏せると隆二くんの指は、次のお皿を指す。


「この年は、ウェディングドレスのイメージだったんだ。ほら、昔写真だけ撮ったろ? ちゃんと結婚式をすればよかったって思った。こんなに美人な嫁さんもらって、見せびらかさないなんて間が抜けてたって」

「ぷっ」


思わず笑ってしまった。
隆二くんはゆるく笑うと、そのまま続ける。


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