ショコラ~愛することが出来ない女~
「そのうちに、俺は思い立った。
康子さんは、俺がケーキづくりに没頭しているといつの間にかいなくなる。
思い上がりかも知れないけど、康子さんはヤキモチを焼いていたのかなって。
だけど俺からケーキを無くしたら俺じゃない。
さあ、どうすればいい? 俺は悩んだ」
「……悩んで、どうしたの?」
彼が正解に行き着いてることに気づいて驚く。
そうか。そこはもう知られていたの。3年も前に?
「康子さんに、俺のケーキに惚れさせるしかないなって思った。康子さんにも同じくらいケーキに夢中になってもらうんだ」
「超前向きね」
「ああ。だから考えた。凄く凄く考えたんだ。それで、ケーキに俺の一番好きなものを表現することにした」
隆二くんの指は3番目、続けて4番目の皿に移る。
「オレンジは康子さんのイメージだ。こっちもそう。マンゴーの色は、去年康子さんがよく塗っていた口紅の色を出したかった」
「口紅の……色?」
覚えてる。
最終的に詩子にあげたあの口紅。
私の存在を思い出して欲しくて、罠を仕掛けるような気持ちで塗ったあの色。
「クリスマスケーキは、俺が持てる力全てを使って康子さんをイメージする。そして必ずケーキに惚れさせてみせる。そう思ってやってきた。去年も、一昨年もずっと」
「……」
「そして、今年のケーキがその集大成だ。これを食べてほしい」