ショコラ~愛することが出来ない女~
風を切るように颯爽と歩くと、通り沿いの桜の木から花びらが落ちて眼前を通過する。
もう春だ。芽吹きの春。
すべての生き物が躍動する季節。
『ショコラ』につくと、店の前には『close』の札が下がってる。
早いわね。
今日は詩子の為に貸切ってこと?
「こんばんは」
「母さん!」
扉を開けると、喫茶店に似合わない濃厚な香りがする。
「何この匂い」
「父さんが、夕飯も作ってやるって言ってビーフシチューを作り始めたんだけど。匂いが強くってさぁ。
お客さん嫌な顔して帰っちゃったからもう閉めちゃった」
「あら。それでcloseなの」
相変わらず詩子の事になるとこれだもの。
悔しいの半分、呆れるの半分だわ。
「詩子さんのお母さん?」
クスクス笑いながら、詩子の隣にいるタレ目のふわりとした髪型の男の子が言った。
彼が詩子の彼氏かな?