ショコラ~愛することが出来ない女~
「さあ、場所を開けろ。詩子の誕生会だぞ」
厨房からいそいそと出てきた隆二くんは右手に大きなホールケーキを持っている。
全体が白いクリームで覆われ、上には色とりどりのフルーツ。
ジュレが薄くかかっていて、まさに食べごろのみずみずしさを感じさせるケーキ。
そして中央のチョコプレートは花型だ。
なるほど。
今が花の盛りの詩子ならでは。
ふと、詩子が私をじっと見ているのに気づく。
「何?」
「ううん。ケーキ……食べる?」
やたら心配そうに聞くので笑ってしまう。
ごめんね。
今まで苦労をかけて。
あなたが居なかったらきっと私達はすれ違ったまま、二度と重なることなんか出来なかった。
そう思いはするのだけど、正面切って詩子に言うのは躊躇われる。
相変わらずの変なプライド。
どうしようもない自分にいつもなら落ち込むところだけど、今日は笑えた。
「食べるわ」
はっきりそう言うと、詩子の顔が晴れる。