ショコラ~愛することが出来ない女~
乾杯の後、ケーキを頬張る。
途端に口に広がるのは予想とは違った甘酸っぱさ。
「あら、これチーズのクリームなのね」
「そう。驚いたろ。その顔が見たかった」
「ええ」
どんどん湧き上がる隆二くんのアイデア。
いつかそれを、私が記事にする。
職権乱用と言われてもこの際構わないわ。
こだわりのマスターが作る、とびきり最高のケーキが食べれる喫茶店『ショコラ』の紹介記事。
それが書けたら、この店への劣等感から逃れられそうな気がする。
そしてあなたの情熱を一番上手に表現できるのは私だと、隆二くんに誇れるような気がするから。
「ねぇ、婚姻届はいつ出しに行くの?」
ケーキを頬張りながら、ワイングラスを片手に言う詩子に、グラスを傾けて応じる。
「そうね。今夜日付の変わる頃にでも」
いつだって。
私の取り柄は押しの強さと勢いよ。
もう二度と、弱気になんかなるもんですか。
来年も再来年も、もっと強くなった私で振り回してやるわ。
隆二くんが、少しも目を離せないくらいに。
そして人生のラストシーンが最高のものになるように、二人で競い合っていきましょう?
【fin.】