ー黒陽ー
-逢瀬-


「おかえりなさい!!!サラー!!」

「アリスぅー!!ただいまあーーーー!!!!」


金色の長い髪をなびかせ
サラが私の胸に飛び込む


「アホらしい」


ハア という深いため息とともに呆れた様子でリオさんがつぶやく


「アリスぅー会いたかったよー!!」

「お疲れ様でした、サラ!!今回は結構遅かったですね…3日ぶりです」

「うそ!そんなかかった?!…ああー、でもちょっと話してるのに時間とっちゃったからかなあ」

サラは大きく 、んー!と背伸びをした後、ふうと息を吐いた


「疲れちゃったから、今日はもう帰って寝る!!報告書は明日!」

「そうですね…今日はゆっくり休んでください」

「…いいですか?リオ様」

サラはニヤニヤしながらリオさんに近付いた

「…俺はあくまで教育係だ。担当外のお前の報告書なんぞ知らん」

ツンとそっぽを向くリオさん
厳しくも聞こえるけどリオさんはこの"黒陽"の幹部の人だ
この人なりの、見過ごし方なのだろう

「ふふ、ありがとうございます…じゃあまたね!アリス!リオ様ー!!」

小走りで本部から出て行ったサラ

サラと出会って
まだ3ヶ月だけど、私にだってわかる


「…相当参ってんな、サラの奴」

「はい…大丈夫でしょうか…」


私とリオさんは"黒陽"本部のカフェテラスに向かった

今日も天気はよく、私たちはちょうど空いていた小川が見える席に座り紅茶を二つ注文した
リオさんは猫だけど
元は普通の人なので紅茶も食べ物もなんでも食べれる
猫の姿のままだと食べにくいから人の姿になればいいのに

…でもそうすると周りにリオさんの存在がバレ、落ち着いて食べれもしないそう


そのリオさんの我慢の甲斐あって店員さんはもちろん、他のお客さんもリオさんの存在には気付いていない


間も無く紅茶が運ばれ、私は一口すすった


「…心配です。サラ」

「お前が心配してもどうにもならん」

リオさんはくあっとおおきな欠伸をした


「で、でもあんなに気丈に振舞おうとしてて…私がサラのお迎えなんかしたから、気を遣わせたんでしょうか」

「俺は逆にあれを見て、安心したがな」

リオさんは小川の先にある花畑を見ていた
私もつられてそちらを見るが
いつもと同じ綺麗な花畑が広がっているだけだった


「安心?」

「感情があるってことだ」

リオさんは片手で器用にカップを抑えながらペロリと紅茶を舐めた

「…人の死に対して何の動揺も、恐れも、悲しみも感じなくなったら終わりだ」


カップを握る手が自然と強くなった

「そんな風になること、あり得るんでしょうか」

信じられない


私はまだ一人しか看取ったことはない
でもあの時の感情を忘れることができない


目の前に
今まさに死を迎えようとしている人がいて
助けたいのに、助けられない

あの、死を目前にした人の表情…


「人の死に対して慣れる、なんてことはあっちゃいけない。何も感じないなんて心が無い人間だけだ」

私はふと気になることが出てきた


「…殺人鬼、とかいう人たちはどうなるんでしょう。そう呼ばれている人たちは、人の死をなんとも思わないんでしょうか…」

「お前、最初の説明聞いてなかったのか?」

リオさんがイヤ〜な顔を向ける

「え、えっとー…」


私は必死に記憶を遡る

確かに、初めて"黒陽"に来た時色々説明は受けたけど
私は右も左も分からない状態だったし
何より混乱してたから
大体のルールは覚えていても細かいことまでは覚えていない


うーうーと悩む私をみて呆れたように深いため息を吐く

「…最初に言われてるはずだ。一度でも人を殺した人間は"黒陽"は看取らない」


「あ…そう、でしたっけ…?」

ど、どうしよう…言われてもピンと来ない…


私があははーと笑ってごまかすと
リオさんはこれまた大きなため息を吐いた



「…人を、一度でも殺したことのある人間の魂は、他の魂とは比べ物にならないくらい汚れているんだと」

「汚れる…?」

私は言われた意味がわからなく、小首を傾げた

「俺も、実際にそういう殺人鬼とか、いわゆる人の命を奪ったもの側の人間を看取ったことはないからなんとも言えんが、そういったやつらの魂は酷く禍々しくて…俺たちが看取ろうものなら
こちら側の魂も汚れてしまうらしい」


リオさんはまたゆっくりと紅茶を飲んだ


「だから俺たち"黒陽"は、その被害者側とか…無垢な魂しか回収しないんだよ。そういう汚いやつは、俺たちより上の死神の仕事だ」


そこまで話すとリオさんは大きなあくびをしながら横に流れる小川に視線を落とした

リオさんの説明はこれで終わりって事なんだろうけど
私には一つ疑問が浮かんでいた


「あの、リオさん…ちょっと質問なんですが」

リオさんは顔は小川から離さず
目だけでちらりと私を見る


「…もし、ですが…私の魂が汚れてしまったら…どうなるんです?」

「決まってんだろ」

私の方にくるりと顔を向け金色の瞳が私を見据えた


「お前の願いは叶わない」

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