愛の花ひらり
プロローグ
 要が生まれた時、彼女の父親が交通事故で亡くなった。
 彼女が幼稚園に入る頃、女手一つで育ててくれていた優しい母親が病に倒れ、その後呆気なく父親のいるであろう天国へと旅立ってしまった。
 孤独――
 たった七歳になるかならないかで、要はその辛さを経験した。
 要を引き取ってくれる親戚の調べがついて連絡をしてくれたのだが、両親は駆け落ちをした仲らしく、誰も小さい彼女を引き取ってくれる親戚の者はいなかった。
 その為、要は施設に預けられた。
 預かってもらえるだけでも有難く思いなさい。この言葉を毎日のように聞かされていた覚えがある。
 今ではどうかは分からないが、当時の施設と言えば、毎日が火の車だったのだと思う。
 服は親切な方々? の子供達のお古。
 毎日の食事もあまり美味しくなかった。
 その中で生活をするようになった要は、早くこの施設から脱出をしたい事ばかりを願って、毎日空に向かってお願いをしていた。
 私を早く大人にして下さい――
 そして一人で生きていける力を下さい
 何度も何度もその言葉を繰り返し、呟いた。
 その時、どこからか要の耳に囁かれた言葉を未だに忘れる事ができない。
 頑張りなさい――
 頑張る? どうやって――?
 最初はその意味が分からなく、この施設というものの存在自体を調べ始めた。
 児童養護施設――これが要のいる施設の正式名称。
 父母と死別したり、遺棄されたり、家庭環境不良や虐待されたりしている児童が保護される施設である。
 入所対象者は一歳以上から十八歳未満の幼児及び少年少女に限られる。
 要が入所させられた施設は大舎制と呼ばれる一般的な施設形態であった。
 この大舎制の施設は、一部屋に五人から八人の子供達が生活をしている。共同の設備、生活空間、そしてプログラムのもとに運営されている為、管理しやすい反面、プライバシーが守られにくい場所でもあった。
 小学校での要は、親のいない子だと知られて苛められ、不必要な憐れみをも受けた。
 しかし、要には目標があった。
 高校に進学する時には特別育成費の支給がされる。
 要は友達など作らずに勉強に没頭した。
 楽しいかと聞かれれば、楽しいとは言えない。だけど、その時の彼女の救いは勉強だけだったのだ。
 そして、何年かの年月が過ぎ、要は奨学金制度を利用して高校、大学と進学した。
 小さなアパートを借りて、バイトを何軒も熟し、細々と生活をする四年間の大学生活を終え、晴れてようやく社会人になる事ができた。
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