愛の花ひらり
「そ、そんな事必要ありません! 用意して頂かなくて結構です! それに何でテレビとかが必要なんですか!?」
 要が即座に返答をして、次に問い返すと、優子が申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「要さんは携帯をお持ちで?」
「それも調べているのでしょう? 持っていないに決まっているじゃありませんか」
 要はフイッと優子から顔を逸らす。今どき携帯を持っていない者など数える方が早いだろう。
 今はもうスマートフォンの時代だとも言われるこの世の中、携帯も需要が少なくなってきているに違いない。だが、要はその時代遅れになりつつある携帯でさえもどのように操作するのかが分からない程に今の流行にも無知である。
 優子は要に向かって片方の掌を上げた。そこには小型のスマートフォンが乗せてあった。
「これを……。社長秘書という仕事では絶対に必要なものですから」
 そして、要にそれの簡単な使い方の説明を行うが、パソコンなどを熟知している要にとっては、すぐに理解できる代物であった。
「呑み込みが早くて良かったですわ」
 一通りの説明を終えた優子が安堵の溜息を吐き、説明の最後に電話のページを開いた。
 そこには二件の電話番号があり、その電話番号の主の名前も登録されてあった。
「名前でお分かりになると思いますが、こちらが社長ので、こちらは私の番号です」
 ああ、そうか――と、要は納得をした。
 社長秘書という役職は、どのような時間でも呼び出される可能性が多く、いつでも連絡を付けられるようにしておかなければならないのだ。だから、携帯もしくはスマートフォンなどが必要不可欠となる。
「これは肌身離さず持っていて下さいね」
 優子はそう言うと、次は秘書室に案内すると伝えた後、再び要に了承を得ようとしたいのか、テレビの事について話を戻してきた。
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