愛の花ひらり
「テレビの事なんですけれど、用意をさせて頂けませんか？」
　要は無必要に高い天井を見上げた。
　天井のライトははめ込み式型で、出っ張りがない為、すっきりとしている。それを見つめながら、要はフーッと諦めの溜息を吐いた。
「それも社長秘書をする上で必要な事なんですか？」
「ええ……新聞も必要ですし、何せ全ての世界の情勢に敏感でないといけないのです」
　全ての世界――
　それは世界中でもあり、この日本の中のあらゆるジャンルの事も言っているのだろう。
　確かに、新聞だけでは載っていない情報もテレビは放送しているし、緊急な時にはその方の情報の方が早い。
　要は、天井を見上げていた顔を元に戻して優子の方に向けると、小さく頷いた。
「分かりました。テレビの用意をお願い致します。このスマートフォンも含めた代金は今月分の給料から差し引いて下さい。多分何か月間か掛かるかもしれませんけれど……」
　ああ、暫くは極貧生活が続くのだろうかと、先行きに不安を感じていた要に、優子はゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、これらの代金は頂きません。どちらも仕事用のものですからね。こちらの経費で払います」
「えっ、でも……」
　要が目を見開いて優子を見つめ、そのような甘えは受けられないと訴えると、優子は笑い声を立てながら説明を始めた。
「スマートフォンに関しては、本当に社内で必要なものです。どの会社でも社員には携帯を持たせるところが多いんですよ。それと、テレビに関してですが、本来必要では思われていない当麻さんに会社側が無理やり押し付ける形になりますのでお気になさらないで下さい」
「はあ……」
　そして、優子はこの話は終わったと言って、要を秘書室へと案内して行った。
　秘書室は社長室よりも少しだけ狭いが、それでも要には広いと感じさせるようにゆとりのある空間である。このような場所で働くのかと思うと、何故か落ち着きがなくなってしまいそうだった。
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