愛の花ひらり
「では、お手洗いとか給湯室など、その他諸々の場所を案内しますからこちらにいらして下さい」
 優子は先程の手帳をそのままに、要を案内する場所に連れて行ってくれた。

「おい、小野峰いるのか?」
 今まで社内会議に顔を出していた敦が秘書室の扉を開けるが、そこは蛻の殻。
「何処へ行ったんだ?」
 と、辺りをキョロキョロとしていると、優子のデスクの上の皮張りの手帳に視線が止まった。
「次の予定は……」
 この手帳には敦の日程表がつらつらと綴られている為、分秒刻みで行動をしている敦は、その手帳を手に取ってペラペラと捲り始めた。
「何だ……? えっ……?」
 優子の手帳の空きスペースのところに要の個人情報が詳しく書かれているのに気付いた敦がそこにじっくりと目を通す。
「ふーん……」
 パタンと手帳を閉じると、それを元あった場所に置く。
「本当にあの熱海からは援助をもらっていなかったんだな……それに……」
 敦はニヤリと笑むと、自分の在るべき場所である社長室へと姿を消して行った――。
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