愛の花ひらり
「ここに入社したがる女性は皆、大企業である氷室の肩書か、テレビや社内パンフレットの社長の顔を見たりしてくる方達ばかりなのですよ。でも入社しても、実際社長に会えるのは、入社式や期の初めなどの特別な行事だけですけどね」
「そうなんですか……」
 普通の女性ならそういう単純無意味な理由で入りたい会社を決めるのだろうなと思っていると、優子が逆に質問を始めてきた。
「当麻さんはどうしてこの会社に?」
 この質問の返答に困る要。何故なら、この氷室商事以外にも数社内定を受けていた彼女も、無意味ではないだろうが単純な理由でこの会社に決めたのだから。
「せ、生活の為です。この会社のお給料が、他の内定していた会社よりも多かったから……でも……」
 それだけじゃないと言いたい要だが、先に金銭的な話を出してしまった為、本来の自分の考えが喉元で引っ掛かってしまったが、
「でも……?」
 と、要の語尾を気にした優子が静かに問い直してくれた。
「ここの社長は、年功序列ではなくて、実力のある者を見極め上に押し上げていく力があるって聞いたから、キャリアアップができるかなって……。今、日本でも活躍する女性は沢山いるって言いますけど、それはまだ氷山の一角なんです。他の内定した会社などの仕事内容を教えてもらうと、事務的なものばかりで、女性をただただ家政婦扱いみたいな……それしかさせる事がないかのような感じだったんです。でも、この会社はそのような日本の常識的になっている考えを打ち破ってくれるのかなって思って……」
 要の話を最後まで聞いてくれていた優子が再び笑う。それは別に馬鹿にしたようなものではなく、反対に要に好意を持ち始めたような、そのような笑いであった。
「やっぱり、当麻さんって変わっていますわね。この会社に入って来た女性達の言葉って大体決まっていますもの。でも、私、そんな貴女が嫌いではありません。寧ろ好きですわ。私、貴女とずっと一緒に働けられたらと思います」
「えっ?」
 友達を作ってこなかった要ではあるが、異性からの愛の告白はこの二十二年間の人生で何度もされている。しかし、相手の気持ちもよく知らないのに告白してくる異性に対して気持ちの悪いものを感じ、今までずっと断り続けていた。それなのに、今、同性でそれもこの会社ではお局と呼ばれるに相応しい歳の優子に気に入ったと言われても、気持ちの悪い感情が湧かなかった。寧ろ、嬉しいと思えたのだ。
 要が顔を真っ赤にさせて、それを優子に見られるのを拒むように俯いて歩いていると、いつの間にか社長室のドアの前に到着していた。
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