愛の花ひらり
「自動車運転免許……」
　社長が要を睨み付けながら、まだある――と伝えてくる。
「ＴОＥＩＣ……それと……大型バイクの免許……大型トラックの免許……」
　次々と自分が取得したスキルが言葉になって出てくる。
　社長は言い終えた後の要をジッと見つめて、その後、深く溜息を吐いた。
「それだけのスキルを持ってりゃ、どこの会社でも雇ってくれると思うぜ」
　その言い方はもしや――要が涙目になる。
「この会社を辞めろという事ですか？」
　ようやく仕事先が見つかり、先の安定も見えだした矢先に辞めろとは――と、まだ目尻に溜まっていた涙はツーッと頬を伝った。
「お、おい、泣く事ねえだろ」
「さっきの社長の言い方はこの会社を辞めろという事ですか！？」
「えっ！？　そんな事言ってねえよ！」
「だ、だって、今さっき、それだけのスキルを持っていれば、どこの会社でも雇ってくれるって言ったじゃありませんか！」
　この会社に就職するまで涙を流した事のない要は、自分が初対面の相手に叫んだり泣いているのにも驚いてしまう。
　その時、要の頭の上に社長の大きな掌がフワッと乗せられた。今まで他人に触れられた事さえなかった要は、その手を思い切り払い除けて後退をした。
「き、気安く触らないで下さい！」
「なっ……何だとぉ！」
　女に拒否されたのが初めてに近い敦であったが、それに対する怒りは一瞬だけですぐに治まってしまう。
　その理由は、目の前に立っていたはずの要が腰を抜かしたように床に座り込んで震えていたからであった。
「おい、確か、お前……」
　友人関係や異性関係にあまり関わらなかったと優子の手帳に書いてあった敦は、それを思わず口に出そうとしたが、この事は自分がまだ知らない範囲であると理解して、先の言葉を喉奥へと引っ込めた。
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表紙・目次

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