愛の花ひらり
 しかし、ボーッとしてはいられないと、要は手にあったカードキーをドアの差込口にクイッとスライドをすると、ガチャリと鍵が開く音が中から聞こえた。
 ドアをそっと開けて中の様子を窺う。
 目の前には昨日敦が履いていた靴が脱ぎ散らかされている。
「お、お邪魔……します……」
 自分の靴を脱ぎ、揃える時に敦の靴も揃える。そして、正面のガラス張りのドアの所まで歩いて行った。
 誰もいないみたいに静かな空間の中、要がそのガラス張りのドアを開いて中に入ると、そこはLDKと呼ばれる部屋であった。
「私の家もだけど、ここも味気ない部屋……」
 思わず口に出してしまう要。
 とても生活空間のある部屋とは言えない程に物がない。あるのは、ソファと添え付けのテーブル、ダイニングテーブルのセット、そして、大きな黒塗りのテレビがドスンと置かれているだけであった。
 対面式のキッチンの方を見てみると、そこにはこのマンションには全て添え付けられているのだろう、周りの壁紙とよく調和した冷蔵庫と食器棚がある。
「はあ……朝食の用意……だったっけ」
 要は大きな溜息を吐きながらキッチンの方に歩いて行って、冷蔵庫の扉を開けた。
「……」
 またまた言葉が出ない。
「な、何で……!?」
 要が食器棚の扉を開く。
「……」
 またまた言葉が出ずに、頭の天辺にモヤモヤとした熱さが込み上げてくる。
 要はキッチンの下の扉も開ける。
「これでどうやって朝食なんか作るのよ……」
 まるでモデルルームのようだ。いや、モデルルームでも飾りのようにザルとか小さな鍋とかを置いて、作り物のフルーツなども置いてあるじゃないか!?
 しかし、この敦の家のキッチンには、冷蔵庫の中はビール数本だけ。食器棚の中はそれ用のグラス2つ。キッチンの下の扉の向こう側は何と空! であった。
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