愛の花ひらり
「ほいっ!」
「何ですか、これ?」
 要がその万札を見つめる。
「今日も多分デスクワークだろ? 時間がある時にここに必要な物を買っておいてくれよ。荷物も多くなるだろうから車を使ってくれても構わない」
「えっ……?」
「ああ、それと、残った釣りは取っといてくれ。今日の朝飯代。コンビニだから高かっただろう?」
 敦はそう言うと、ダイニングテーブルの惣菜を一気に口に含ませ、両手を合わせて、ご馳走様――と呟くと、洗面所の方に向かって行ってしまった。
 機転が利く――
 今までそういう事を言われた事がない要ではあったが、何やら心が軽い。
 仕事とは全く関係ない事だが、自分を秘書にして良かったという敦の言葉がとても嬉しくさえ感じた。
「おい、もうすぐしたらここを出るぞ」
 ダイニングテーブルの上をぼんやりと見つめていた要に、洗面所から戻って来た敦が声を掛けて来て、要はハッと我に返った。
「い、いけない! 早く片付けなきゃ!」
 コンビニで分別用のごみ袋も買って来ていた要は、空になったパックを綺麗に洗った後、その袋に捨てていった――。
 出勤途中、車の中で、玄関を入ってすぐの部屋の掃除を頼んでくる敦。それに要は至極嫌そうな表情を浮かべた。
「何で、そこまで……」
「引っ越しする時に、両親が何か、段ボールに沢山詰め込んで送って来たんだけどさ。必要のない物だろうと思って一度も開けてないんだよなぁ……」
「そんなの私なんかが開けても、いる物とかいらない物とか分からないじゃないですか?」
 ハンドルを握った要が返事をすると、敦は背凭れに深く背を凭れかからせて大きな伸びを起こした。
「殆ど要らない物だと思うし、要りそうな感じだったら一つの所に纏めておいてくれよ」
「めんどくさ……」
 心の中で呟いておこうと思っていた言葉が外に吐き出され、要はあっ! と口に片手を当てた。
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