愛の花ひらり
「めんどくさいだろうなぁ……そうだろうなぁ……でも、奉仕手当出すぞ?」
「なっ!」
 言い返せない――
 ニヤリと笑いながら要を見つめる敦。
 要はその視線に必死に耐えながら、会社の地下駐車場へと車を進ませて行った――。
 午前中の敦は会議の為に、会議室に籠り切りとなり、要は優子から社長秘書としての仕事の説明を細かく教えてもらっていた。
「今朝はどうでした?」
 その合間に優子が時間外勤務の事を訪ねてくるが、今朝の事を思い出した要は少し苛立ちを覚えて、
「何にもない家でした!」
 と、短い一言を放っただけであった。
 会議も終わり、昼からの敦は優子と共に外出をする事になっている。勿論、まだ新米である要はデスクワークなのだが、出掛ける前に敦が要に朝の事を伝えてきた。
「んじゃぁ、頼んでた事、よろしくな」
 そうでした――
 要が項垂れる。午前中の忙しい時間の中で、朝の車の中での敦との会話をすっかり忘れていたのだ。
 優子も敦から詳細を聞いているのだろう。
 ニッコリと笑って、要の肩に優しく手を乗せてきた。
「頑張って下さいね」
「はい……」
 二人が部屋を出て行った後、要は自分のカバンを引っ掴んで会社の地下駐車場まで下りて行った――。
「す、すごい荷物になってしまった……」
 調理器具に食器、そして掃除道具に食材や調味料などをたんと買い込んだ要は、敦のマンションの玄関の内側でゼイゼイと息を荒げていた。
 一通り、キッチンの方の片付けを終えた後、要は玄関近くの部屋の扉を開けた。
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