愛の花ひらり
 今週の土曜日というともう明日ではないか!?
 テレビの事をすっかり忘れていた要は、ある事が気になり優子に問い返す。
「あの、テレビの大きさってどれくらいですか?」
「えっと、ちょっと待って下さいね……あっ、少し大きいサイズを頼んでしまいましたわ」
「えっ……」
 適度な温度に設定されている秘書室の中で、要の額から一筋の汗がたらりと流れる。
「少し大きいサイズって……?」
「65インチくらいでしょうか」
「……それってどれくらいの大きさなんですか? わ、私、よく分からなくって……えっと……確か、1インチ=2.54だから……」
 要がメモ帳にボールペンを走らせて計算を始める。
「当麻さん、あちらをご覧になって」
「へっ!?」
 優子が指差す方向を見る要。
 その場所を見た瞬間、要はムンクの叫びのような仕草で無言の悲鳴を上げた。
 こんなに大きなテレビ! 私の寝る場所がなくなっちゃう!
 結局、優子にテレビを頼んだ店に電話してもらい、30インチのサイズに変更してもらったのであった――。
「へえ……30インチのサイズねぇ……ちっさくね?」
 花の金曜日だと言うのに、要は敦をマンションまで送り届ける為、そのような楽しい時間を過ごす暇はない――と言っても、要にはアフターを楽しく過ごす友達や彼氏などはいない為、この敦を送迎する事に何の不満もないのだが、まだ敦には自分のプライベートの事を知られていない為、車の中で今夜は誰かと食事か飲みに行かないのか? と聞かれた時、その話題から気を逸らす為にテレビの事を口に出した。
「小さくはないです。私のアパートには十分位の大きさですから」
 要が敦のマンションのリビングに設置してあるテレビを思い浮かべる。
 確か、すっごく大きかったような――
「あの、社長のリビングのテレビのサイズって……?」
 赤信号待ちの時に要が思い切って聞いてみると、会社で残してしまった仕事の書類と睨めっこをしている助手席に座っている敦が返事をしてきた。
「えっ? 俺のテレビ? ええと、確か一番でかいやつだから75インチだったかな?」
「な、75インチ!?」
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