愛の花ひらり
 確かに馬鹿デカいとは思ってはいたのだが、あのだだっ広いリビングに置かれていると、一番大きいサイズのテレビでも小型のように見えてしまうのは何故だろうか?
「ああ……だから、家具屋とかで見た家具って小さく見えるんだ……」
 これはある意味、目の錯覚を利用したものなのだろうなと要は考えていると、書類を挟んでいたファイルをバサッと閉じた敦がフロントガラスの方に人差し指を向けた。
「信号、青……」
「あっ!」
 二人の乗っている車の後続車がクラクションを鳴らし続けているのに気付いた要は、慌ててギアを操作してアクセルを踏みしめていた――。
 敦のマンションに到着した時、夜の十時を回っていた。
 要は眠い目を擦りながら夕食の準備をする。
「今夜は簡単なものにしよう……」
 レタスを千切って氷水の入ったボールに投げ入れていく。小さな鍋に水を入れて火にかけている間に、キャベツと人参の千切り、新玉ねぎをスライスする。
 鍋の中の沸騰した湯の中に豚のばら肉を入れて火を通している間に、サラダボールの中に先程の生野菜を適当に放り込んだ。
 そして、もう一つの中くらいの鍋で即席スープを作り上げた時、早炊きでセットした炊飯器が炊き上がりの可愛らしい音楽を鳴らしてきた。
 火に通した豚のばら肉をサラダボールの中の生野菜の上に盛り、市販のドレッシングをかける。スープも勿論、市販のコンソメスープを溶かした湯の中に白ネギの千切りと卵を溶き解したのを流し入れて完成する。
「パンの方が良かったかな?」
 そう呟きながらダイニングテーブルにそれらをポンポンと置くと、テレビの前のソファに座っていた敦が知らぬ間に要の背後までやって来ていた。
「へえ……こんな短時間でこれだけの料理が作れるとはな」
「ぎゃあぁ!」
 意識さえしていれば、敦が近寄って来ても気にはならなくなってきていたが、やはり不意打ちとなると、どうしても拒絶感たっぷりの態度を取ってしまう要に、敦は気にする事もなく自分の椅子に座ると、要にも一緒に食べるよう誘ってきた。
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