愛の花ひらり

「今日はもう帰ります」
「何で？」
「えっ？　だって、社長は明日ゴルフせったいですよね？　それに明日の朝にテレビが配達されるらしいので、帰って簡単に掃除をしておかないと……」
　すると、敦はいきなりズボンのポケットから携帯を取り出してどこかに電話を掛け始め、要はダイニングテーブルの傍で立ちながらその姿を凝視していた。
　敦の電話の相手は優子であった。
「明日のテレビの配達を日曜日に変更してくれ」
「えっ！？　ちょ、ちょっと！　いきなり何を言い出してるんですか！？」
　敦の言葉に要が突っ掛ろうとすると、彼は片手を要の口元に触れるか触れないかの所まで伸ばしてきた。
　黙れ――と、敦の片手と瞳が要に無言の命令をしてくる。要は敦からの無言の圧力に逆らえず、グッと吐き出そうになる言葉を喉奥に引っ込めた。
　優子はテレビの配達の日程変更の理由を敦に尋ねたようだ。
「あっ？　明日、俺を送迎してもらう為だよ」
　その後、優子は納得したのか、携帯を切って再びポケットに入れる敦を見ながら、要は今日の会社での優子の言葉を思い出していた。
　敦はゴルフ接待の時は一人で行くと言っていた。それなのに何故送迎をしなければならないのだろう？
「何か言いたそうだな？」
　いつの間にか敦の顔が要の顔を覗き込むような格好で目の前にある。
「うぎゃっ！」
　要は飛び上がって後退りをすると、ソファの背凭れの所にお尻が乗っ掛かるような体制になってしまい、全身のバランスを崩す。
「う、わっ……あっ！」
「おい！　危ないっ！」