この人痴漢です!
あれっ……?
なんか、おかしいかも。
彼は必死に『違います!』と言っておばちゃんたちから逃げる。
「あのっ!……ごめんなさい、勘違いでした……」
顔が真っ赤になる。
大騒ぎになった車内は、あたしの一言で静かになった。
「痴漢じゃ、ありませんでした……ご迷惑おかけしました」
おばちゃんたちは文句をいうわけでもなく、良かったわねぇと言って元の位置へと戻る。
渡る世間はやっぱり鬼なんかいないようで、誰も文句なんか言わない。
問題は……。
痴漢と疑ってしまった、彼だ。
おばちゃんの攻撃が終わってもなお、真ん中あたりの床に座り込んで呆然としている。