この人痴漢です!
「あの、すみません……あたしの早とちりで、こんな目に遭わせてしまって」
「俺、痴漢じゃないです……あれ」
彼は我に帰ったように、慌てて立ち上がる。
あら……よく見るとイケメンじゃないの。
あたしは運命の出会いを確信した。
「ほんとにごめんなさい!」
「大丈夫だから、そんなに謝らないで……あれ、君」
≪まもなく、〇〇駅。お出口は左側です≫
あたしの降りる駅に着くと放送が入る。
本当に間もなくして、左側のドアが開いた。
「あたしここの駅ですから、さよならっ」
「え?ちょ……」
華麗に電車からジャンプして降りる。
彼の言葉を遮って去り、ミステリアスな女子を演出してみた……気にしておいてもらえるようにね。
明日も、会えるかな?
あたしは痴漢という失礼きわまりない勘違いをしたのも忘れ、すっかりうきうきしていた。