彼女の残したもの・・・
第9章 瘡蓋(かさぶた・・・)
あやのの話は、あまりにも悲しかった・・・

あやのは中学の2年になるのを待たず、伊豆の漁村に引越して行ったという。

母と二人。

弟は施設に預けての旅立ちだった。

父親は、その後も酒に溺れ、何度かの傷害事件の末、女を作り、借金を残して家を出て行った。

母は昼夜を問わず働き詰めだったが、母が働いていたスナックにまで、父親の借金の取り立てが来るようになり、店には居られなくなったらしい。

母の遠い親戚を頼り、伊豆の小さな漁村に流れ着いたが、そこにも母子の居場所は無かった。

なんとか近くの旅館に、母は仲居として、あやのはまだ14歳だったが雑用係として、母子住み込みで雇ってもらえた。

旅館は20室余りだったが、2階の布団部屋を与えられた。

経営者は50代半ばの夫婦で、従業員は板前のジンさんとその見習いのてっちゃん、あとは通いの仲居頭、それと母子だった。

しかし、束の間の幸せは長くは続かなかった。
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