彼女の残したもの・・・
あれから、二十数年が経とうとしている。

僕は数年前、結婚したが去年の秋別れた。

40代になり、親の勧めの見合い結婚だったが、うまくは行かなかった。

あやのを八方手を尽くして捜してみたが、見つからなかった。

そして、突然の訃報。
その差出人は、恐らくあやのの母親だろう・・・
盛夏も過ぎ、秋風が肌に感じられる日が続くようになり、僕はその葉書にあった宛て所を訪ねることにした。

その後のあやのの足取り辿る旅・・・
あやのの最後を知る旅でもあった。

伊豆下田。

あんなに嫌がって捨てた町へ、あやのはまた舞い戻っていたのだ。
下田駅からタクシーを拾い、葉書の住所に向かった。

窓から見える空も海も鉛色をしている。

タクシーの運転手が話し掛けてきた、
「お客さん、旅行ですか?伊勢えびまつりには、ちょっと早いですよ」

「はぁ」

「今年は温暖化のせいか、海もずっと時化て市場も開店休業ですわ」

僕は上の空で聞いていたが、タクシーは漁村特有の細くて迷路のような道を抜け、小さな漁港を通り、やがて古びた二階建のアパートの前に止まった。

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