彼女の残したもの・・・
歩いて漁港の横の小さな砂浜に出ると、砂浜に腰を下ろした。
入江になっているその浜は静かだったが、漁港の防波堤には白い波しぶきが激しく上がっていた。
不意に後ろから声を掛けられ、振り向くと僕と同じか、多少上に見える男だった。
「杉山慎吾さんですね?」
その男は哲二と名乗った。
僕は、あやのの話に出てきた板前見習いのてっちゃんだとすぐに分かった。
哲二の話によると、あやのはここに10年程前、舞い戻ってから、漁協前の定食屋でアルバイトをしていたという。
愛嬌があって気風の良いあやのは、すぐに漁師たちのアイドルになった。
しかし、なぜか誰とも付き合おうとせず、身持ちは固かったそうだ。
訊くと一度も結婚したことが無かったらしい。
そして、あの季節外れの台風が接近していた日のことだった。
県外から遊びに来ていた高校生が高波にさらわれた。
いつも一人で海を見に来ていたあやのは、躊躇することなく飛び込んでいた・・・
一人は自力で浜に泳ぎ着き、一人は亡くなった。
目撃した漁師の話だと、あやのは必死で助けようとしたが、しがみつかれて道連れになったらしい。
てっちゃんは、あやのが好きだったらしく、話しながら涙声になっていた。
そして、僕にポケットからくしゃくしゃの封筒を手渡した。
「綾乃が、いつかきっと杉山慎吾という人が訪ねて来るから、来たら渡してって・・・」
封筒の中からは、几帳面な文字で書かれた便箋が出てきた。
入江になっているその浜は静かだったが、漁港の防波堤には白い波しぶきが激しく上がっていた。
不意に後ろから声を掛けられ、振り向くと僕と同じか、多少上に見える男だった。
「杉山慎吾さんですね?」
その男は哲二と名乗った。
僕は、あやのの話に出てきた板前見習いのてっちゃんだとすぐに分かった。
哲二の話によると、あやのはここに10年程前、舞い戻ってから、漁協前の定食屋でアルバイトをしていたという。
愛嬌があって気風の良いあやのは、すぐに漁師たちのアイドルになった。
しかし、なぜか誰とも付き合おうとせず、身持ちは固かったそうだ。
訊くと一度も結婚したことが無かったらしい。
そして、あの季節外れの台風が接近していた日のことだった。
県外から遊びに来ていた高校生が高波にさらわれた。
いつも一人で海を見に来ていたあやのは、躊躇することなく飛び込んでいた・・・
一人は自力で浜に泳ぎ着き、一人は亡くなった。
目撃した漁師の話だと、あやのは必死で助けようとしたが、しがみつかれて道連れになったらしい。
てっちゃんは、あやのが好きだったらしく、話しながら涙声になっていた。
そして、僕にポケットからくしゃくしゃの封筒を手渡した。
「綾乃が、いつかきっと杉山慎吾という人が訪ねて来るから、来たら渡してって・・・」
封筒の中からは、几帳面な文字で書かれた便箋が出てきた。