monoTone
「京介、行こう。その人の名前は?」

「…宮沢《みやさわ》」

あたしは、引っ張られていた京介の手を引っ

張り返して、お墓の中に行く。

宮沢という人のお墓の前まで連れてくると、

京介の手を離した。

「あたし、トイレ行ってくるね」

京介を一人、お墓の前に置いてきて、あたし

は、他のお墓の間を歩く。

ふと、視線を感じて、周り見渡した。

でも、どこを見ても、あたしの近くには、人

一人すらいなくて、誰に見られてるのかなん

て、全くわかんなかった。

視線を強く感じる方を見ても、あるのは、ひ

とつのお墓だった。

そのお墓は、他のお墓とは違い、少し大きく

て、周りのお墓と、少し距離があった。

「…松榛《まつはる》」

そのお墓の名前は、松榛さんだった。

「…ねぇ、寂しくない?」

他のお墓と、距離があって…寂しそうに見え

て、なんでか、あたしの心が痛んだ。

このお墓が…あたしと全く関係ない気は、し

なくて。

「寂しくなったら…周りのお墓に、寂しいっ

て言ってみるといいよ」

そのお墓を撫でると、あたしは、京介のとこ

ろに戻った。

まだ京介は、お墓の前で手を合わせていて、

その姿は…いつもの京介に見えなかった。

顔は、驚くほど綺麗で、言葉が冷たくて、不

良で、すごく強い京介には…見えない。

…背中が、寂しく泣いていた。

「京介」

あたしが声をかけると、京介が顔をあげて、

あたしに寂しそうな表情を見せる。

「お話、終わった?」

「…あぁ」

「京介…?」

「ん?」

低いけど、優しい声…

「寂しい?」

「…ん?」

意味、伝わんなかったかな?

「京介、寂しそうな背中してるよ」

「ははっ…寂しそう、か…」

自嘲した笑いをする京介。

「抱き締めて、いい?」

「ん」

あたしから抱き締めるつもりだったのに、し

ゃがんでいた京介は立ち上がり、あたしを抱

き締めた。

「…寂しい時は、あたしのこと、抱き締めて

ね」

「ん」

返事はいつも短くて、感情は読み取り難いけ

ど、京介は今、怒ってないのは、よくわかる

んだ。

「もうそろそろ…行く?」

「…そうだな」

しばらく、京介に抱き締められていて、あた

しと京介は、お墓を出た。

「京介、あたしは今日、京介の1日彼女だか

らね。彼女に頼みたいこととかあったら、何

でも言ってね!!」

「…じゃあお前も、1日彼氏の俺に、なんか

頼みたいことあんなら、言えよ」

頼みたいこと…?

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