ルージュはキスのあとで


「あんなの嘘だよー」

「う、嘘?」

 あっけにとられて彩乃を見れば、ニンマリと意味ありげに笑った。

「ん、ああいっておけば送っていくなんてバカな男の魂胆を踏みにじることができるでしょ?」

「そ、そうでござんすね」



 そうでござんすよ~、とクスクスと笑う彩乃。

 そうなのだ。
 彩乃のこういうところが好きなのだ、私は。



 彩乃はかわいいだけじゃない。 


 男に媚びない、潔くて気持ちいいぐらいに男前なのだ。

 見た目としては、私のほうが男前度は高いが、気持ちの上では彩乃ぐらいさっぱりした女子はなかなかいないと思う。


 ただかわいいだけの女の子なら、私はこうして友達にならなかっただろう。

 彩乃だったから友達になれたんだ。


 彩乃は、私に女子力アップさせろだとか、コスメとかファッションに気を使え、などとお小言も多いけど、ありがたいと思っている。

 彩乃に少しずつ、いろんな世界を見せてもらっている。 

 そんな気がするから。


 合コンもそう。


 何事も体験だ! とは彩乃の弁。

 このごろの私は、彩乃節に染まりつつあるなぁと思わず苦笑する。



「で、どうする? どこで飲みなおす?」



 私が彩乃を見て笑って言うと、彩乃は手を叩いて喜んだ。



「そうこなくちゃ! さぁて、どうしようかなぁ」



 彩乃が次のお店を考えているときだった。
 突然私たちに声をかけてくる人がいたのだった。



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