ルージュはキスのあとで
距離を置いた先には……
23 距離を置いた先には……
「お疲れさまでしたー」
「真美さんもお疲れさま。今日は月末だったから仕事のほう、大変だったんでしょう?」
「はは、でもなんとか間に合ってよかったです」
「ごめんね。なかなかスケジュールが合わなくて、本職のほうが忙しいときに……」
「いえいえ、大丈夫です。それに残りもあとわずかですしね」
「本当、あっという間だったわよね」
皆藤さんと私は、コーヒーを飲みながら談話中だ。
メイク講座も残りあと一回となった。
この三ヶ月間。なかなかに充実した日々を送れたんじゃないかなぁと今なら思える。
初めは渋々、嫌々だった。
メイクやファッションには興味は皆無、そんな私がまさか……ファッション雑誌の体験モデルをやることになるだなんて。
最初は、彩乃が強引に押してきて、それをなんとか押し切り断りを入れよとしたのだけど、結局は長谷部さんからの挑発に受けてたってしまっていた。
今となっては、やってよかったと思っている。
長谷部さんの挑発に単純に乗ってよかったと、本音で思ってる。
だって、こうして私は知らない世界を見ることができるようになったんだから。
まだまだメイクだってへなちょこだし、とても上達したという域まで達していない。
なんとか基礎中の基礎ができるようになってきたかなぁ、というぐらいだ。
だから偉そうなことなんて全然言えないけど、メイクを通じて自分の体の変化や状態を把握するようになった。
それって、ものすごく私にとっては進歩だと思う。
そのことに関しては、長谷部さんに感謝だ。
彼が、根気よく教えてくれたから、今メイクって楽しいなぁと思えるようになったんだから。
「あと一回よね。真美さんの最終試験、楽しみだわぁ」
「そんなにプレッシャーかけないでください。私なんてまだまだなんですから」
「あら、そんなこと言うの? 読者からのメールや手紙で真美さんの株急上昇よ?」
「またまた」
「本当だって。ものすごく垢抜けたって評判よ?」
「ありがたく誉め言葉いただいておきます」
おどけてそういうと、私が本気に受け取っていないと皆藤さんにはバレたのだろう。
「本当だってば!」
とムキになって皆藤さんは口を尖らせた。
そんな仕草がおかしくて、私は笑った。