ルージュはキスのあとで
誤解が解けた夜
24 誤解が解けた夜
「……どうしたの、正和くん」
「ん?」
「ずっとニヤニヤ笑い続けていて気持ち悪い」
正和くんに連れてきてもらったのは中華料理屋さんだった。
街の小さな中華料理屋さんって感じで、敷居も低くて入りやすい。
中に入れば、餃子の焼けるいい匂いがする。
思わずお腹の音が鳴ってしまいそうだ。
座敷に座り、注文も終わって一息ついたというのに、目の前に座った正和くんはニヤニヤと笑って意味不明だ。
「いやー、真美のおかげで面白いものが見れたからさ」
「面白いもの?」
なにか楽しいことがあっただろうか。
さきほどの出版社での出来事を思い浮かべてみたが、これといって思い浮かばない。
楽しいどころか、肝が冷やされる出来事はあったのだけど……。
いつも無表情で威圧的で、冷静沈着の人間がなにかを睨み付けると、あんなに恐ろしい形相になるのか。
思い出しただけで、背筋が凍る思いだ。
ああいう人間は怒らさないほうが賢明だろう。
ただ……あの様子からすると、一方的に無視を続けている私を睨みつけているような感じだったから、時すでに遅しっていうやつかもしれない。
それにしても、と思う。
あんなに距離を置いていた人物と、こうして食事を一緒にしようとするこの状況。
三ヶ月前までは考えられないことだった。
あのころは、正和くんに言われた言葉に傷ついていて、メイクだってする気が起こらなかったし、正和くんとも二度と会えないと思っていた。