ルージュはキスのあとで
「いや、あれは明らかに俺が悪かった。ごめんな真美」
「正和くん」
「俺、びっくりしたんだよ」
「え?」
正和くんの言葉に驚いて顔をあげれば、そこには困ったような恥ずかしそうな笑みを浮かべた正和くんの顔があった。
「ずっと妹みたいに思っていてさ、子供だと思っていた真美がさ、突然女になってってさ」
「……」
「なんでだろうな。あのころ社会に出たてでさ。キレイに着飾ってる女を見ることが多くて……だけど、女って結構えげつないっつーか。隠れて何考えてんのかわからねぇなんて思ってってさ」
「……うん」
「そんな女ってメイクもバッチリで、香水もすごくてさ。今になれば俺の周りにいたヤツが偶然そんなヤツラばかりだっただけだってわかったけど。あのころはちょっと拒絶反応起していたっていうか」
髪をグシャグシャとさせながら、恥ずかしそうに目を泳がせる正和くんが、なんだか可愛く感じた。
「そんなときにさ、昔から可愛がっていた真美が突然メイクして女として俺の前に現れただろう?」
「……」
「お前だけはさ。そんな女たちみたいになってほしくなくて……あんな酷いことを言っちまったんだ」
「正和くん……」
「ごめんな、真美。あれは俺の勝手な思い込みと偏見だった」
潔く頭を下げる正和くんに、私は今までの思いがフッと軽くなったのがわかった。
もう過去のことなんだ、私にとっては。
そう思えるようになったのは、長谷部さんと出会ったからだって思う。
頭を下げたままの正和くんは続ける。
「メイクしたって中身は真美なのにな。あのとき、そんなこともわかってなかった。ごめん」
「だ、大丈夫だよ、正和くん。気にしないで!? ね!?」
まだ頭を下げ続けている正和くんにそう声をかけると、ホッとしたように頭をあげた。