ルージュはキスのあとで
「……お前が地味になったの俺のせいだよな?」
「ち、違うから。私はただ……そう! メイクってめんどくさいからしていなかっただけで」
慌てて言い繕う私を見て、正和くんは苦笑した。
「ありがとう、真美。でも……俺はちょっと安心した」
「え?」
「今の真美は、いままでの真美とは違うだろ?」
「?」
正和くんの言葉の意味がよくわからなかった。
首を傾げて目の前の正和くんに問えば、腕組みをしながら考えるような仕草をする。
「見た目だけで言っているんじゃないぞ? なんつーか、内面から輝いてるなって思う」
「ま、正和くん? な、なに言っているのよ」
カラカラと笑って誤魔化そうとする私に、正和くんはピシッと私を指差して不敵な笑みを浮かべる。
「俺をなめんじゃねぇぞ? 真美」
「へ?」
「だてに努力しているモデルたちを見ているわけじゃないんだ」
「……」
「今の真美、うちの雑誌の表紙はれるぐらいキラキラしてるから」
断言する、とまで言われてしまった。
こんなふうに面と向かって誉められたことなんて今までになかったから、どう対処していいのかわからない。
それも自分の外見のことを言われているのだ。
三ヶ月前の私からみたら、天地がひっくりかえるぐらいの衝撃だ。
「そ、それは……長谷部さんがメイクを教えてくれたからで」
困った私は、小声でそう呟いたのだが、正和くんは確信をもっているとばかりに首を振った。
「それは違うぞ? 真美」
「え?」
「真美の努力があったからだし。真美が変わったからだよ」
「そ、そうかな……?」
そうだよ、と自信満々で頷く正和くん。
ものすごく嬉しかった。
「自信をもっていいぞ、真美。今のお前なら向かうところ敵なしだ!」
トンと胸を叩く正和くん、茶目っ気たっぷりのその仕草に噴出した。
「冗談ばっかり言って……」
「本当だって、特に……」
「え?」
「長谷部京介関連は、な」
今日一番だといえるぐらいに、ニヤリとニヒルに笑う正和くんが口にした言葉に、私は思わず顔を赤らめた。