ルージュはキスのあとで
その線が有力かもしれない。
なら、ますますまずいじゃないか!
次回の最終講座、どんな顔をして長谷部さんの前にいけばいいんだろうか。
キスのことだけを考えたって長谷部さんの前に行きづらいというのに……。
ここのところは、プチ無視な感じの私。
その上……正和くんとこうして食事にきてしまった。
これはマズイ展開かもしれない。
いやいや、待て待て。
もっと違う線も考えられる。
長谷部さんは知っている。正和くんが私の昔の傷、トラウマの張本人だということを。
だから、もしかしたら心配してくれたのかもしれない。
なるほど、その線もなかなかに信憑性が高い気がする。
どちらにしても、だ。
長谷部さんのご機嫌を損ねるだけの要素はあるといっても過言ではないという、この状況……。
どう打破すればいいんだろうか。
ヤバイ。
考えればかんがえるほどヤバイと感じる。
「あのさ真美。お前ずっと長谷部京介と距離をおいていたろ?」
「な、何故にそれを……」
「皆藤さんが心配していたからな。結構仲良くやってたのに、突然ギクシャクしだしたって」
「……」
やっぱり皆藤さんも気がついていたんだ。
まぁ、そうだろうな。あれだけあからさまに長谷部さんとふたりきりになるのを拒んでいた私だ。
皆藤さんが気がつかないわけがない。
どういう理由かもわからない状態で、皆藤さんは私に協力してくれていたということらしい。
今度、お礼を言わなくちゃ、と呟いていると、正和くんは真剣な顔をして聞いてきた。
「なにが原因でそうなったのか。色々お前たちを観察していてわかったんだな、これが」
「え?」
どうやら正和くんにも心配をかけていたらしい。
思わず恐縮して肩を竦めた。
「まず気になったのは、長谷部京介の態度」
「長谷部さんの?」
「ああ、真美に対してのあの男の柔らかい表情を見て、ピンッときた」
「……」
「今までのあの男を知っているヤツなら、びっくりするほどに変わったからな」
ウンウンと腕を組んで納得する正和くんに、私は水を差した。
「……気のせいだよ。うん、絶対に気のせい」
断固として言い張る私に、正和くんはフフンと鼻で笑ってあしらった。
「そうでもないんだな、これが」
「え?」
自信ありげな正和くんの態度を見て、私は首を傾げるばかりだった。