ルージュはキスのあとで



「そんなわけないさ。長谷部京介は、モデル嫌いで有名だしな」

「そうなの?」

「そうなんですよ、真美さん」



 おどけたあと、正和くんはビールを飲み干した。



「だけどな、秋菜はかなり諦め悪くて……ずっと長谷部京介に付きまとっているらしい」

「……」

「あからさまに嫌われているとわかっているのに、モデル仲間に自信満々で長谷部を落すって言い出したのか。真美は、わかるか?」



 いや、わからない。

 それだけ相手に嫌われているのに、そんなふうに人に言いふらすことなんてできないはず。
 
 人に言うってことは、自信があるということ。

 でも、今までの長谷部さんの態度を見れば、普通なら諦めていくものだと思うのに……。

 それなのに、何故?
 突然、そんなふうに自信をつけたというのだろうか。

 私は、正和くんの問いに首を振った。



「神崎 進が、秋菜をそそのかしたからだよ」

「え?」



 思わず驚きすぎて、持っていた箸を落としてしまった。
 慌てて箸を拾い、お皿に乗せたあと正和くんを見つめた。



「なんで……そんなことを? 進くん言ってたよ? 長谷部さんはモデルをとっかえひっかえしているから、私に本気になっちゃだめだって」

「それ。そこがすでにおかしいな」

「……」



 あんなに親身になってくれた進くん。
 それなのに……それが全て嘘だなんて……信じられない。

 だけど、あのとき確かに少し様子がおかしいと感じたのは確か、だ。

 と、いうことは……?
 正和くんが言っていることは、本当ということなんだろうか。

 困惑する私は、縋るように目の前に座る正和くんを見た。




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