ルージュはキスのあとで
進くんの優しい笑顔を思い出す。
あの笑顔もすべて……作りものだったっていうのだろうか。
笑顔の裏では、私のことを疎ましく思っていた……ということなんだろう。
なんか、ちょっとそれって悲しい。
小さくため息を零すと、正和くんが労わるように私の顔を見つめていた。
「あるんだよ、そんなこと、がな」
「正和くん……」
頭がパニックを起している。
なかなか事態を飲み込めずにいる私は、とりあえずは生ビールを煽った。
少しだけ気が抜けてしまったビールは、ますます私のこころのモヤモヤを増やすだけになってしまった。
「真美、自信を持て!」
「正和くん」
どうしたらいいのかわからず、今の状況がうまく掴めない私は、正和くんに救いの手を求める。
すると、いつもの笑顔で頷いた。
なにか心配ごとや不安なことがあると、よく私は正和くんに相談をしていた。
そして最後には、正和くんに笑顔で言われるんだ。
「真美、自信を持て!」
それだけで気分が浮上して元気になれた幼いころ。
あのころの笑顔と同じ正和くんを見て、なんだか少しだけ心が落ち着いた。
「長谷部京介は間違いなく真美が好きなはずだ」
「ま、正和くん!?」
慌てる私をチラリと見たあと、少しだけ拗ねて口を尖らせる。
「あーあ。俺の大事な妹分が、あんな冷徹ヤローに奪われるかと思うと悔しいが、しかたがない」
「ちょ、ちょっと!」
ありえないことばかり言い出した正和くんに慌てて弁明しても、聞いてはくれない。
正和くんはそ知らぬふりをして続ける。
「真美は、どうやら長谷部京介のことが好きみたいだしなぁ……ここは妹分の幸せを願うべきなんだろうなぁ」
「……」
「お兄さんは寂しいなぁ」
チビチビとビールを飲みながら、最後はどこかもの寂しそうだ。
「何言っているんだか。正和くんは」
呆れ顔でそう呟けば、正和くんはムキになって反論してきた。