ルージュはキスのあとで
「真美が読者モデルをやるんですか?」
「あー、読者モデルじゃないの。ある企画のね、体験モデルをしてもらいたくて」
「どんなモデルなんですか? あ、私は彼女の友達なんですけど、話は私が承ります」
彩乃は、いつのまにか私の専属マネージャーにでもなったように、背筋を伸ばして真っ向から対決する姿勢をみせている。
そんな彩乃を見て、ニンマリと笑った皆藤さん。
なにやらお互いアイコンタクトなんてして、すでに意気投合しているように見えるのは私だけだろうか。
私のことを話し合うはずなのに、なぜか蚊帳の外な感じが否めない私の立ち居地。
オロオロとふたりを交互に見ていると、話はどんどんと進んでいく。
「今回からね、新企画が動き出すの。ねぇ、立ち話もなんだから社に行かない? すぐそこなの」
そういって皆藤さんが指差したのは、ほんの100m先にあった。
大きく『かわみち堂出版社』と書かれていて、あそこかぁとぼんやりと思ってみていると、強引に皆藤さんに腕を引っ張られた。
「は? え? ちょ、ちょっと?」
「はいー、行きましょう、行きましょう」
そういって半ば強引に皆藤さんに引っ張っていかれ、気がつけばビルの中の一室。会議室のようなところに通された。
「もー私ってばラッキー。こんな子を探していたのよ」
「……と、いいますと?」
彩乃は身を乗り出して皆藤さんに聞いている。
もう私のことなんて誰も見ちゃいないし、聞いてもない。
勝手にしてよ、まったく。
私は出していただいたお茶をひとくち飲んだ。
玉露。
いい温度で、香りも高い。
とても甘くて深みのある味に思わず顔も綻んだ。
「これよ、これ。この笑顔がよかったのよ」
「へ?」
突然私を見て、皆藤さんが頷いた。
びっくりしてお茶が入った湯のみを落としそうになってしまった。
慌てて茶たくに湯のみを置いて、皆藤さんをまっすぐと見つめる。
「ねぇ、なんでメイクしないの?」
「えっと……一応うすーくはしていますよ?」
「ああ、うん。なんとも見当違いのね」
「うっ!」
あまりに正直にまっすぐに言われてしまって返す言葉はない。
そんな私に、皆藤さんは真剣な顔をして呟いた。
「なにかあったんじゃないの?」
「え?!」
驚きの声を出したのは彩乃のほうだ。
私は、あまりに皆藤さんが確信に突いた言葉を言ったので、驚きのあまり声が出なかった。