ルージュはキスのあとで
「これだけキレイになったのは、長谷部京介のためなんだろうが」
「いやいや、それは違うってば。体験モデルなんて大役をしたせいだから。私が手を抜いたら、長谷部さんの仕事に影響がでちゃうかもしれないから」
「ほらみろ。やっぱり長谷部京介のためなんだろう」
「だーかーらー!」
なんかすっかり気分は、花嫁の父親らしい正和くんは、完全に拗ねている。
どうしたものかと思案にくれていると、私の携帯が鳴った。
見てみれば、長谷部さんからだった。
私の顔を見て、電話の主が誰からなのか悟ったのだろう。
正和くんは、ほらみろ! とばかりに鼻を鳴らした。
「長谷部京介からなんだろう?」
「う、うん……」
「さっさと出てやれよ」
「……」
「それにしても笑えるな! いつもクールで清ましているヤツが慌てているかと思うと」
「……」
まだ電話は鳴り止まない。
私は、鳴り響く携帯電話を握り締めた。