ルージュはキスのあとで




「は、長谷部さん!?」

「本当は……別に他人なんて関係ない。誰に見ていられようが、噂を立てられようが、別に構わない」

「っ!」

「俺は真美とふたりきりで会いたかった。ただ、それだけだ」

「は、長谷部さんっ?」



 ギュッと再び抱きしめられる。
 体を包み込むように、長谷部さんの熱を感じる。

 さきほどの手首を掴まれていたときとは比べ物にならないぐらいに……ダイレクトに感じる熱。

 今度こそは、私の胸の鼓動が伝わってしまうのではないかと顔を赤らめた。
 長谷部さんは、肩越しに頭を預けてきて、私の耳元で囁く。



「この前、俺はお前にキスをした」

「……」



 コクリと頷くと、長谷部さんは私の首筋に擦り寄るように頭を近づける。



「そのとき、真美は俺に聞いたな? 今のはなに? と」

「はい」

「俺は……別に、と答えた」



 そのとおりだ。
 
 あの日、突然長谷部さんは私にキスをした。
 慌てた私は、長谷部さんに聞いたのだ。

 今のはなに? と。

 それなのに、長谷部さんは別にたいしたことがないように、「別に」と答えた。

 だから、私は……あのキスの理由がわからなくて悩んで……長谷部さんと距離をとった。

 進くんのアドバイスどおりに……。


「はい」



 小さく呟くと、長谷部さんは私を背後から抱きしめたまま、耳元で呟いた。




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