ルージュはキスのあとで
「だが、理由はあった」
「え?」
「お前にキスがしたかった」
「へ?」
「理屈じゃない。体が勝手に動いていた」
「っ!」
「あとで何度も自分自身に聞いた。どうして突然キスをしたのか」
長谷部さんは私の項に顔を埋めるようにしたあと口を開いた。
「あの日、お前の様子がおかしかった。心配になって聞いても理由を教えてはくれない」
「長谷部……さん?」
「お前の気持ちの矛先を俺に向けたかった……そういうことだ」
それだけ言うと、そのまま私を抱きしめたまま黙り込んでしまった。
「……それって、どういう意味ですか?」
震える体、赤くなる頬、熱くなる体。
なにかを望んで、高鳴る鼓動。
今、ものすごく長谷部さんの顔がみたい。
どんな表情で、どんな瞳で、その言葉を言ったのか。
知りたかった。
長谷部さんの、いろんな表情をもっと見たい。
ぬくもりや、呼吸。
長谷部さんの熱が背中から伝わる。
でも、肝心の長谷部さんの顔がこの状態じゃみれない。
見たいな、長谷部さんの顔。
今、どんな表情をしているのか。
どんな気持ちで、私を抱きしめているのか。
知りたい。
長谷部さんのことが、知りたい。
「長谷部さん」
「なんだ?」
「顔、見せてください」
「イヤだ」
「即答ですか!?」
間髪いれずに答える長谷部さんに、思わず噴出してしまった。
駄々っ子みたいな長谷部さんの態度。
なんだかいつものクールなイメージから一転、可愛く感じるだなんて言ったら……さすがに零度の視線で睨まれてしまうかもしれない。
クスクスと笑いが止まらない私に、長谷部さんは困ったように息を吐いたあと、ギュッと私を抱きしめる腕に力を入れる。
長谷部さんの吐息が、私の項にあたって……甘くて、くすぐったくて……ドキンと胸が高鳴った。