ルージュはキスのあとで




「わ、私。恋愛初心者なんですよ?」

「知ってる」



 グイッと長谷部さんの胸を押して、逃げようとする私に長谷部さんはどこか不愉快そうだ。

 今、舌をチッと鳴らしましたよね?

 流れに任せる気、マンマンでしたよね?
 私は、長谷部さんを見上げて口を尖らせた。

 
「いきなり……ハードル高くないですか?」

「別に?」



 私の抵抗に、いつもどおりクールな態度だ。
 
 いや、待て。長谷部さん。

 やっと初恋から立ち直ったばかりの私に、いきなりこれは……高度すぎると思うのだけど。



「別にじゃないです! 高すぎます」

「……」

「だ、だって。抱くだなんていきなり言われても……」

「じゃあ、いきなりじゃなければいいのか?」

「そういう問題じゃなくてですね!」



 やめてください、長谷部さん。
 キャラが変わっていますから、絶対。

 私を見下ろす長谷部さんの視線が、甘すぎだ。
 その視線だけで、人を軟体動物にさせることができるほどの強力光線だ。

 さすがは、クール王子。
 
 だてに、王子と言われてはいないということか。
 至近距離で、この甘い光線では……さすがの堅物女、干物女代表の私としても折れそうになってしまう。

 すでによろめきまくっている私の体に、しっかりしろ! と激を飛ばす。

 口を真一文字に結び、長谷部さんを睨みつける私をみて、長谷部さんはしょうがないとばかりに呟いた。




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